2023年1月8日日曜日

ハイエクの貨幣論集について

 

ハイエクの貨幣論集について

 

ハイエクの「貨幣論集」を読んでいろいろひらめいたのでメモしておく。

世の中には実物資産と金融資産という二つの資産がある。二つの資産の決定的違いとは実物資産は車だったら20年したらスクラップになるし建物だって100年したらボロボロになるが、金融資産、例えば100万円のお金なら20年後だろうが100年後だろうが100万円であるということである。(もし銀行預金しておけば利子までついてくることになる。)要するに基本的に実物資産は長期間ため込めないが、金融資産は基本的に永遠にため込み続ける、貯蓄し続けることができるということが決定的にちがう。

このことから基本的に世界はいつか金融資産が実物資産に対して供給過剰になりすぎハイパーインフレになり、金融資産は紙屑になることが必然であることが分かる。それゆえハイパーインフレになるのをなるべく先延ばしにするためにマイルドにインフレさせ貨幣価値を減価させようとすることは(インフレ主義)基本的に正しい。(だが、国家の創成期の7・80年までに実需に対する供給能力が整い、企業間で価格競争が激化し始めるデフレになると貨幣供給を増やしてもインフレが起きない期間が続き、4・50年(この期間の長さは金融緩和をどれだけしなかったかによって変わる)が続き、その後ある時急激にインフレが激化し始め、それに対して金融引き締めをすることにより国家は衰退していくことになる。)

実際の日本の歴史でも中国の歴史でも250年ごとに戦乱を経て権力が移動していくことがこの経済原則を証明している。歴史は創造、維持、破壊を繰り返して進んでいくと言われているし、この250年ごとの戦乱による破壊があるからこそ社会の腐敗が浄化され、まともな道徳観を持った人間が生き残ってきたともいえるので、今始まっている世界大恐慌という破壊も人類社会にとってはどうしても必要な浄化なので避けようとしてはいけないものだということが分かる。

 

ここで第二次世界大戦後から現在と少し先の未来までの世界をマネタリズム的に説明しようと思う。

まず戦後の焼け野原から経済復興が始まった。戦後から20年くらいは実物商品が需要過剰供給不足のころだった。そのころ、マネーは金本位制だったが実体は金本位制とは名ばかりのものだった。なぜならアメリカは東西冷戦を戦うためという大義のもと軍拡を続けるため初めから金融緩和していたからである。ただインフレは1970年くらいまではマイルドに推移していた。だがそれも1971年のニクソンショックにより名実ともに不換紙幣の時代となった。

不換紙幣経済の本質は何かというと、不換紙幣は実物資産に対していつも供給過剰なのでマネーの不足ということは起こりえないということにある。(なぜなら不換紙幣は印刷すればいくらでも供給できるから)

1816年のイギリスの行った金本位制ではマネーの不足ということは起こるし、事実植民地インドではマネーの不足が起こった。この植民地でマネーの不足をわざと起こすことこそイギリスの植民経営、インド人を搾取するエッセンスなのである。どうして19世紀の金本位制下では植民地でマネーの不足が起こったかというと、まず金本位制下でマネーが潤沢にある国とはゴールドをたくさん所有している国である。つまり18世紀までにインドにあった膨大なゴールドを奪ってイギリスに輸送していたからイギリスには潤沢にマネーがあり余っていて、インドはすでにほとんどすべてのゴールドをイギリスに奪われてから金本位制になったからマネー不足だったのである。

マネーの不足ということが何を意味するかというとインドで人為的にデフレを起こさせることができるということである。デフレが起こるとどうなるかというとインドでつぶしあいの競争が起こり、綿花の低価格競争、低利益率競争が起こる。またそのことによりインドの労働者の賃金の切り下げ競争が起こる。デフレはイギリスがインドにおけるマネーの量をコントロールしていることに原因があるから、実物商品の供給過剰によって起こるデフレと違い談合と切磋琢磨によって自力でこの貨幣の供給過少デフレを解決することはできない。

またここが一番重要なのだがマネーが不足しているインドでは基本的にマネーの貯蓄ができなくなり(なぜなら生活水準を落とし続けながら日々の生活を送るのが精いっぱいのマネーしか与えられていないから)、借金をするとしてもデフレだから高金利になる。(日本がデフレの時低金利だったのは世界的に金融緩和して貨幣がじゃぶじゃぶに余っていたから低金利だったのであり、普通はデフレ状態の時は貨幣が供給不足により希少価値を持つから高金利になる。ちなみに日本でデフレ状態でもどうにかこうにか製造業が残ったのは世界が金融緩和していて低金利だったからである。)

貯蓄がない、マネーがないから高額な工作機械を買って工場を自分で作って服を生産することができない。(高金利で借金して工場を作ってもイギリスが借金しないで作った工場や低金利で作った工場には対抗できない。)つまりその日暮らしをしながら、長い償却期間を要する大規模な設備投資の必要のない綿花生産を永久に続けることしかできなくなるのである。

マネーの潤沢にあるイギリス本国ではどうなるかというとインドから安値で買いたたいた生産品があるためマネーが過剰であるにもかかわらず極端なインフレが起きない。またマネーが潤沢にあり、借金するとしてもインドよりずっと低金利なため、長期間の償却期間を要する大規模設備投資して国内にインドの綿花生産よりもずっと高利益率な衣服の生産工場を作ることがたやすくできる。イギリス国内では切磋琢磨という競争が起こり商品の高品質化の競争が起こり、労働者の賃金が上がる。労働者の賃金が上がるから需要という国内のパイが拡大してより供給強化が起こり、経済成長していく。

以上のようなことが起こることにより、金本位制によって先進国が後進国を永遠に搾取することができるのである。

つまり不換紙幣通貨国家主義経済とはマネー不足を起こさせないから(紙幣が足りないなら造幣局ですればいいだけだから)金融資産をほとんど持たない貧乏人有利、労働者有利、発展途上国有利の経済であり、金本位制国際通貨性とは植民地や発展途上国にマネーの不足を引き起こさせることにより金持ち有利、投資家資本家有利、先進国有利の経済システムであると基本的には言える。

 

1980年ごろから実物需要が落ち着いて世界は実物商品の供給過剰となった。そのため実物商品を作って生計を立てている国では激烈なつぶしあい競争が生まれ、派遣社員に代表されるように弱者に屈辱的生活を押し付け、使い捨てにするような気風が世界的に広まった。

マネーはそのころから一段と金融緩和が進み始めたが、世界の金利、インフレはまだマイルドだった。

ただ永遠に続くと思われた世界的低インフレ時代もコロナショックとともに終わりをつげ、まだ株価の大暴落はしていないが、一足先に2022年ごろからインフレが激化し始めた。

 

ではアメリカは不換紙幣に変わったからニクソンショック以降一貫して発展途上国の味方だったのかというともちろんそうではない。不換紙幣経済は基本的には確かに発展途上国有利の経済システムなのだが、ただし先進国で金融緩和していて、かつ先進国でインフレが始まらない間は先進国有利のシステムなのである。

だが、金本位制は理論的に先進国が半永久的に後進国を搾取できるシステムだが、不換紙幣による金融緩和は永久には後進国を搾取できないシステムなのである。どういうことかというと世界中の人々がいつか自分たちの持っている実物資産に対して金融資産があまりにも大きくなっていることに気づく。そして自分たちの紙幣や株式がもしかしたら明日紙くずになってしまうのではないかと思う。だからそうなっても自分の財産を減らさないため自分の持っている金融資産を不動産などの実物資産に変えようと誰もが思う。その時長年の金融緩和で膨れに膨れ上がったバブルがパチンとはじけてしまう。

バブルがはじけると先進国に企業の過半数は債務超過になり倒産となる。大量の失業者が出て、先進国は不況になる。バブルがはじけた後も持っている金融資産を実物資産に変えようとする動きは世界的に続くので実物資産の相対的価値が上がり続け、世界は実物商品が供給過剰であるにもかかわらず、それにも増してマネーが供給過剰なので先進国ではスタグフレーションとなり、発展途上国ではインフレとなる。

なぜなら今現在の実物資産の代表である工場などは発展途上国にあるので、基本的にマネーは先進国から発展途上国に流れ続けることになるからである。つまりそういうわけで先進国ではスタグフレーションがおそらく450年間続くことになる。また発展途上国では先進国からマネーが流れ込み続けることにより、新たな需要が生まれ続け450年間おそらくは許容できる範囲のインフレ下で好景気高度成長が続くことになる。

先進国で起きるスタグフレーションとはどういうものか詳細について説明すると、まずスタグフレーションとは実物の供給過剰とマネーの供給過剰が表面化することを言う。つまり実物の供給過剰によるつぶしあい競争の一環として先進国内で企業の低利益率競争が起き、労働者間では低賃金競争が起きる。またマネーの供給過剰により、高インフレが起き、それを抑え込もうとするため金融引き締めが起こることによって大量の失業者が出、かつ借金をすると高金利になる。つまり現在は不換紙幣経済であるにもかかわらず、19世紀の金本位制でのインドで起きたデフレと同じことが先進国で起きる。このことをスタグフレーションというのである。(1929年の世界大恐慌ではアメリカは不換紙幣制度に変え、金融緩和して国内を低金利にするという逃げ道があったが、今回の世界大恐慌ではその逃げ道はないということでもある。)

これを発展途上国による先進国への搾取ととるか今まで虐げられてきた発展途上国がただ単に解放されただけととるかは評価者が先進国に住んでいるか、発展途上国に住んでいるかという立場と評価者自身の性格によるところが大きくなるだろう。

そして最終的にどうなるかというと発展途上国と先進国の格差はおそらくはほとんどなくなることになり、そこまで行くと先進国のスタグフレーションも止まる。

この先進国が今まで450年間金融緩和して贅沢して暮らしてきたつけを、先進国自身が今後450年のスタグフレーション耐えることによって間接的に支払うことをベイルインという。(2022310日の5chに書いた私のレスは忘れてくれ。あの時はまだマネタリズムについて私自身あまり良く理解していなかった。笑)

ベイルインは民主主義的に見て納得のいく解決策といえるが(世界人口の60億人以上は発展途上国に住んでいる人だから)、このベイルインが実行されるには今後も世界経済が不換紙幣経済であることが必須条件である。

先進国が金融緩和して贅沢して暮らしてきたつけを発展途上国が延々と支払うことをベイルアウトという。どういう風にするとベイルアウトできるのかというと上述した金本位制経済に世界をもう一度戻すことによってそれは可能になる。なぜなら今でもゴールドの大部分は先進国、特にアメリカが保有しているからである。

どういう手順でベイルアウトするかというととりあえず金融引き締めをあまりせずに世界的インフレを放置する。そのことによって世界的にインフレをなんとかしてくれという世論が起こり、いったん今の不換紙幣の価値を全部なくし、そのことにより今のマネーの供給過剰状態を解消して、新たに金本位制に基づく通貨に切り替えようとマスコミを使い世論を誘導する。(このリセットの事をグレートリセットとダボス会議では言っているらしい。この今現在じゃぶじゃぶに余っている不換紙幣の価値を全部なくし、新たに金本位制の世の中にすること自体が、先進国が金融緩和して贅沢して暮らしてきたつけを発展途上国が一気に支払うということを間接的に意味することになる)。それから先はまた19世紀イギリスとインドと同じような関係に世界はなり、先進国はゴールドを保有しているので大規模設備投資が続けられるようになり、発展途上国ではゴールドがあまりなく、いつもマネーが不足しているので設備投資のいらないような仕事しかできないので、先進国は半永久的の発展途上国を搾取できるような世の中になる。

一見するとこれは先進国にあまりに都合がよすぎて不可能そうに見える。ハイエクも「人々が欲することなく世界が公式に金本位制に戻ると試みれば、おそらくはこうした状態では新たな崩壊につながるだけである」と貨幣論集p217でも言っているし、現実問題として歴史的に19世紀イギリスがなぜ金本位制を導入できたかというとイギリスの軍事力がインドに対して圧倒的に勝っていたことに原因がある。

だが、世界は現在きな臭くなってきて、本当に第三次世界大戦が起きても不思議ではない雰囲気が漂ってきた。マスコミは専制国家群と民主主義国家群(つまり実質はベイルイン派とベイルアウト派、発展途上国群対先進国群と言ってもいいかもしれない)との対立の激化はやむを得ないし、第三次世界大戦が専制国家群と民主主義国家群との間で行われてもおかしくないとの意見をあおり始めた。

おそらく私の予想では第三次世界大戦になる直前で発展途上国側の大国の一つが自らが半永久的に中間搾取国家になることを条件に先進国側に寝返り、第三次世界大戦自体は起きないが、世界がベイルアウトを選択して、金本位制に戻る確率が50%くらいはあると思っている。

そうならないためにもより多くの人がハイエクの「貨幣論集」を読んで邪悪で薄汚い先進国側の経済理論をよく理解し、反論や対抗策を練っておくことが急がれる。(ハイエクの「貨幣発行自由化論」には貨幣論集の約3分の2が入っているが、もっとも重要な論文「通貨国家主義と国際安定性」という論文が入っていないのでどうしても「貨幣論集」を手に入れる必要がある。)

ハイエクの基本的な間違いはどこにあるのかというと私見によれば、競争にはつぶしあいと切磋琢磨という二種類の競争があることを知らなかったことと豊かな国のインフレなき安定的な通貨とは他国や他地域に対する構造的搾取なくしては存在しないことを認めなかったことである。つまりハイエクは自分たちが富んでいるのはマックスヴェーバーのいうようにプロテスタンティズムの倫理によるものであって、植民地からの搾取によるものとは絶対認めなかったことがハイエクの間違いだったのである。


                完