2024年5月17日金曜日

統合失調症患者の目指すべきゴール

 

統合失調症患者の目指すべきゴール

統合失調症を発症して、なにはともあれ急性期を切り抜けて精神的に落ち着いてきた人がいろいろと試行錯誤しながら自分なりに自然治癒力を高めて回復しようとするとき、自分が日々回復しているか回復していないのかが分かる基準を見つけようと思うことだろう。また統合失調症が回復するとはどういうことなのという定義について知りたいと思うことだろう。

まず回復のゴールを病前の健康だったころに戻ることだとするならばそれは到底無理だと誰もが直感的に分かるであろう。またもし病前の精神状態に戻れたとしてもその精神状態はまたすぐ統合失調症を再発しやすい危うい精神状態であるから冷静に考えれば誰もそのような精神状態には戻りたいとも思わないはずである。

しかし多くの患者はあまり深く考えずとりあえず社会復帰してフルタイムで働いて、人並みに稼ぐことを目標として日々リハビリに励んでいる。が、それははっきり言って賢明な目標とはいえない。なぜなら肉体労働だったら45歳くらいまで、デスクワークだったら50歳くらいまでなら確かに週40時間フルタイムで働けるかもしれないがそのくらいになると向精神薬の副作用と老化現象の相乗効果により体が疲れやすく、かつ疲労を回復するための時間が長時間必要になっていきフルタイムでは働けなくなっていくからである。私自身、45歳くらいまで週30時間くらいブルーカラーとして働いていたが、45歳くらいから体が疲れやすくて週20時間くらいに減らさざるを得なくなって、今51歳で週に一日9時間労働しか働いていない。確かにもっと命をかけて働くならまだ週に20時間くらい働けるかもしれないが、後述するように過労は統合失調症を極めて再発させやすくなる要因の一つなので、そこまでのリスクを冒してまで人並みに稼ぎというものに執着するのは客観的に見て賢明な判断とは言えないだろう。

また人並みに稼ぐ人生とは基本的に正社員として、フルタイムで定年まで働いてきっちり退職金までもらうことでようやく完成する人生のことだが、統合失調症から回復した人でそんな人生を送れるスタミナを持つ人は千人に一人もいないのでやはりそういう人生を目指そうと思うことは早めに諦めたほうがいいだろう。確かに人並みにフルタイムで働き、人並みの稼ぎを得るということは、統合失調症を発症して障碍者となってボロボロになった自尊心を回復させる手段としては一番簡単で、一番安易な方法に見えるし、自尊心を回復させることと統合失調症を治すことはほとんど同じことだとはいえる。しかし、冷静に自分自身のスタミナのなさ、ストレスに対する弱さ、疲労から回復するために要する時間を考えて、どう考えても少なくともサラリーマンとして人並みの稼ぎを得ようとすることは不可能なことに早めに気づくべきである。短時間バイトを健常者と対等に肩を並べてすることは私も自尊心を回復させるために推奨するが、それだけでは回復できない自尊心は、私見としては後述するようにこまめにメモを取ることによって丁寧に日常生活を送ったり、近所のごみ集積所の掃除などの利他行為をしながら金にはならないけれど自分に誇りを持てる生活をすることによって回復させるべきだと思っている。つまり人並みの給料を得られなくても、自分の弱さを自覚しながらも、ともかく粘り強くこつこつと自分の人生をセルフコントロールし、人間的に成熟しようと努力していると自尊心は回復するということである。

また人並みに稼いで人並みの幸せを手に入れられれば、確かに自尊心を回復させることはできるかもしれないが、人並みに幸せになりたいという執着は一方では統合失調症の認知機能障害を完全回復させるための最大の障害となるので、そういう意味でもフルタイムで働くことを回復の目標とすることはおすすめできない。

ではどういった状態になることを統合失調症の治療のとりあえずのゴールとすべきかというと、今現在あなたは統合失調症回復期初期に状態において、途方にくれていて、かつなにかに抑圧されていて頭がうまく働かないような状態になっているとおもうが、その状態が解消されて、明るく朗らかな気持ちになって、かつ抑圧感から解放されて頭が病前以上に冴えるような状態になることをゴールとすればいいのである。

また良心的精神科医の代表ともいえる中井久夫も、貧しくても暇な時間がたっぷりあって余裕感の中で憩う統合失調症を完全寛解した人は健常者よりも幸せそうに見えると言っているが、私自身、統合失調症完全寛解者としてその意見には完全に同意する。貧しく質素な生活の中で自分の中に弱いけれど優しい心を感じ、ゆっくり生きる喜びを味わいながら生きることは、健常者には多分分からないかもしれないが、統合失調症という大病を乗り越えた人にとってはなによりも幸せなことなのである。またそういう風に生きることが中井久夫の言うエレガントに生きるということなのだと私は思っている。

詳細については章を改めて述べるが、自分の幸せのためか何か他の目的があるのかはよく分からないがともかく世間や周りの人たちに勝つために戦い続けることが病前の人生だとすれば、統合失調症を発症するということはそういう人生が強制終了することであり、闘病を経て、統合失調症が完全寛解するということはリラックスしながら自分の人格、人生を完成させるため、または他人を幸せにするために生きていこうと本心から思い、人生の第二ステージの扉を自分で開き、歩み始めることなのである。また病院のデイケアなどで統合失調症から寛解した人を見たことがあると思うが、統合失調症から寛解した人はみな憑き物の落ちたような晴れやかな顔をしていて、かつ天真爛漫に生きている。つまり統合失調症患者が目指すべきゴールはエレガントに生きながらかつ天真爛漫に生きているような境地だともいえる。心のゆとりを大切にして、エレガントにかつ天真爛漫に生きられるようになれば、統合失調症の認知機能障害も当然完全回復して、病前以上に頭も回転するようになっているから両者は同じゴールだともいえる。

 

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