2019年5月18日土曜日

統合失調症完全克服マニュアル 6


退院から6ヶ月ほど経つと、そのあいだ何事もなければ抗精神薬が徐々に減薬されていくことになる。抗精神薬が減るに従って体がすこしずつ軽くなりやる気もわいてくる。デイケアで音楽療法としてみんなといっしょに合唱する時に、喜びを感じ他の患者に対して連帯感、淡い友情などを心に持つことができるようになるのも大体退院から6ヶ月くらい経ってからだ。

ある患者は退院から数えて6ヶ月間、発病してからだと1年間ずっと笑えず、笑えないことで腹の底に悪いどんよりした空気が溜まっているような気がして、息をどんなに吐いてもそれが吐き出せないような不快感に苦しんでいたが、デイケアに来はじめて5ヶ月目のある日突然、デイケアのプログラムでみんなで茶道の真似事をしている時大笑いした。その患者は発病するまで世界の第一線で働いていたのだけれど、世界で活躍しているときは自分を偉大に思い、ドロップアウトして週に3回デイケアに来て同病の患者たちと幼稚園児みたいにみんなで合唱し、茶道の真似事みたいなことをしている時は絶望感でいっぱいになる、そんな自分の卑小さが急におかしく思えてきて腹のそこから笑いがこみ上げてきたそうだ。30秒ほど笑い転げたあと、看護師に「笑えましたね」と話しかけられ、「ええ、笑えました。腹の底から悪い空気を全部吐き出せました。もう大丈夫です」とすっきりした顔で答えた。その日からその患者は回復期前期の絶望感を克服してみるみると回復していった(その患者が世界の第一線に復帰するのはそれからさらに紆余曲折があって発症後8年ほど経ってからなのだけれども、これを読んでいる統合失調症患者で笑えないで苦しんでいる人のために、とりあえずどんな統合失調症患者でも大笑いできるくらいには回復はするという事実を報告したくこのエピソードを書いてみた)。

統合失調症回復期前期に感じる圧倒的な絶望感は本質的に自分が人並みに幸福になりたいという欲求を持っているがそれが絶対に叶わないという思いから生じる。またこの人並みに幸せになりたいけど、絶対になれないだろうという認識こそが、回復期前期における最大の自殺理由なのである。つまり人並みに幸福になりたいという執着こそ絶望感の中核であり、自殺理由の中核なのである。その執着を捨てることができれば、つまり自分の人生をある意味あきらめることができれば、苦諦、生きることは苦しいと明らかに認識できればその絶望感は克服でき、死にたいという気持ちもなくなり淡々と生きることができるようになる。そして絶望感の克服、人生をある意味あきらめることこそ回復期前期における心の意志化の具体的ほどき方なのである。

具体的にどうすれば人並みに幸せになりたいというある種普遍的な願望を捨てられるかというと上記の自嘲して大笑いした患者のように自分を客観視できればいいのである。そのためには統合失調症になり社会からドロップアウトした不幸な自分という被害者意識に凝り固まらないで、きちんと他の生物や発展途上国の人々の命や人生の犠牲の上で成り立っている自分という立場から目を離さないで他の生物や発展途上国の人々に対する加害者意識を忘れないでおくことである。その加害者意識が生命というものがこの宇宙で互いに対抗しあい、食い合って生きている事実に対して諸君に必ず本質的悲しみ、大悲という感情を抱かせてくれる。その悲しみをきちんと持つことができれば人並みに幸せになりたいなどという汚らしいちっぽけな願望は必ず捨てることができるようになる。自分の人生をあきらめるというエレガントなゆとりを与えてくれるのである。切迫感のある圧倒的な絶望感から脱出させてくれるのである。

回復期前期は基本的に絶望感を克服することがその期間の峠で、絶望感を克服したあと、自分の人生にある意味あきらめがついたあとは、日に日に心にゆとり、余裕がうまれ、心にゆとり、余裕をもつことにより他人への温かい友愛の情が復活し、陰性症状である感情の鈍麻、平板化が改善されていき、友愛の喜びがさらに心にゆとりを与え自然治癒力が高まっていく、といった具合に好循環に入り加速度的に回復していく。

回復期前期が終わる頃、退院から2.3年経った頃には抗精神薬を最低量までもっていき、社会復帰するためのリハビリとしての週23日、一日23時間の障害者雇用枠の短時間バイトができるようになり、性欲が復活してくれば順調に回復していっていると言ってよいであろう。

           明日に続く

 

 

 

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